ご挨拶

 

代表幹事 澤 芳樹
(大阪大学大学院医学系研究科科長、心臓血管外科教授)

 日本心臓移植研究会は、1981年の国際心臓移植学会の設立に相応して、その2年後の1983年に、川島康生、小柳 仁、平 明、雨宮 浩ら先達によって、我が国での心臓移植の普及と発展のため発足し、これまで33年間にわたり本邦における心臓移植医療の発展に多大なる貢献をしてまいりました。

 この間、1997年に臓器移植法が制定され、1999年に心臓移植が再開され、我が国における心臓移植の幕開けとなりましたが、非常に厳しい法律と提供条件の制約のため、心臓移植は年間10例にも及ばず、社会的に定着するには程遠い状況が続きました。しかし、このような逆境のなか、移植症例数は少ないながらも粛々と実績を積み上げ、世界に誇れる成績を上げてきたことは関係者各位の並々ならぬ努力と情熱があったからであり、その結果ようやく2010年7月から改正臓器移植法が施行され、本人の意思が不明の場合、家族の判断で脳死での臓器提供が可能となり、また15歳未満からの臓器提供が可能になったことから小児にも心臓移植への道が開けました。2011年、Bridge-to-transplantation (BTT)としての植込み型補助人工心臓が保険償還され、これまで体外型補助人工心臓しか使用できなかった状況から、補助循環下での自宅退院が可能となり、患者のQOLが著しく向上し職場復帰や復学が可能となりました。また、脳合併症や重症感染症といった重篤な合併症も減少し、心臓移植への到達率も飛躍的に上昇いたしました。このように重症心不全の治療成績が向上するとともに重症心不全治療が広く周知され、移植希望登録患者数は急増し現在、400名を超えております。しかし、移植症例数は臓器移植法改正後、年間40例前後に増加したものの、移植希望登録患者数に比較し極度にドナーは不足しており、海外と比較してもマージナルドナーからの心臓移植が極端に多い現状があります。今後もドナー不足の状況は続くと思われ、脳死判定方法からドナー管理にいたるデータベース化を行い、本邦におけるマージナルドナーからの心臓移植のエビデンスを出していく必要があると考えております。

 現在、本邦では心臓移植は65歳未満に限られており厳しい適応基準を課しているため、移植適応から外れる重症心不全患者に対しては植込み型補助人工心臓を入れることができません。一方、海外では心臓移植の年齢制限はなく、移植適応基準から外れた場合でもDestination Therapy (DT)としての植込み型補助人工心臓の選択枝があります。本邦でもいよいよ今年からDTの治験が始まります。補助人工心臓と心臓移植はいわば車の両輪の関係で、重症心不全に対する世界標準治療に早く近づくことを切に願っております。

 また、小児領域については昨年、小型補助人工心臓EXCORの保険認可が下り、小児移植実施施設以外でも今後、認可が下りる予定で、小児重症心不全治療もさらなる発展が期待されます。ぜひ、全国で情報を共有するシステムが立ち上がることを期待しております。

 心臓移植が再開されてからはや16年が経過し、緩徐ながらも症例数も増加し、国民の間には少しずつ心臓移植が普遍的治療であると認識されつつあると思います。このような状況の中、このたび、本会の代表幹事に選任いただき身に余る光栄でございます。浅学非才の私ではありますが、重症心不全の両輪である心臓移植と補助人工心臓治療のさらなる普及をめざし、粉骨砕身を惜しまず貢献できればと思っております。今後とも本会の発展にご指導ご鞭撻のほどよろしくお願い申し上げます。

 平成28年1月1日 日本心臓移植研究会代表幹事 澤 芳樹

 

           

 

 

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